:        

Poesie Giapponesi

Poesie scelte
Traduzione giapponese di Yasuko MATSUMOTO

 

出発問際に (Sul punto di partire)

パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳



毎回

出発しようとする時

その旅の

つまらぬ意味

虚しいわけに

躊躇い、家に

留まりたい気持ち、

もう帰えれ

ないかも知れない

何かが起こる気配を

何故か恐れて。

夢は・・・

最も完全に

思われる

プラン、それは

ベッドに深々と

眠り続けること。

 

 

 

夢 (Sogno)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳


もし、それが出来れば

汽車に乗り

車窓から

事物と人たちが

早くの方へ、次々と

帯状に滑りながら

吸い込まれて行く様を

あたかも見るかのように。

微かにそれらが触れ合い

その中に巻き込まれるのは

錯覚だ、とは分かっている、

だが、無関心を装っても

好奇心がうごめくほどの

何かを残して去るからだ。

流れる水や、手に掬っても

こぼれ落ちる砂など。

それらに、あたかも世紀、

歴史の終末の試練とか、

古代やギリシャ時代、

ローマ時代の生の姿を

眺めるようにさえ思われて。

 

 

 

闇 (Buio)




パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳


愛されたことか

ともかく 喜びや

悲しみもなく、愛され

なかったことを

心の中に

残す思い出

その足跡が

聴く証拠の

生命の(偶然の?)

点火と

消滅など

悲しみに捉われると、

闇の腕に抱かれた

暗い壺の中に突如

突き落とされる。

色褪せたその思い出

それでもなお、全てが

開花して来るものだ。

その影と香、だが

バラに思いを寄せた

思惟や色さえ            あの

時のものではない。


 

世の下僕 (Servi del mondo)




パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳


インテリの偽善とは、

曖昧な思惟の

怪物、心には

虚しいイメージの

結末を抱き、愛の

みなもとへと永遠に

縋りつき、実の

決断なく             真の

誤魔化しの影。つまりは、

確かな所与だけを示しても

世に仕えるために

失った時を、もう

予想してもいない。

 

 

 

永遠に (Per sempre)




パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳


一言 云いながら、

喉のなだらかな曲線

胸に宿る陰

横腹に沿い

上へと昇り

手の先に触れ、

僅かに裂けた扇状の

形に移り変わった

その白い肌色を見る。

関節に繋がる箇所、

とは言え、その小さな部分には

形、色合、堅固さが伴っている、

僕らの感覚に

外接する対象と

場所になる時には、

その詳細さだけが

明らかに現われて

抽象的なものではなく

薄れ行くものでもなく、

あるいは、本能的に

神の内在を 時間に

抗して 消え果てた

無駄なものでもなく、

その名残りが

沈み込み 滑り落ち

ない前に 現世とは

一瞬の永遠なのだ、と

 見せかけてくれながら。

 

 

愛の実体 (Il corpo dell'amore)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

誰でも それぞれの

宿命のひらめきが

あの遥かな所にある。

最も禁止された夢想だが、

愛の実体に

出会いを委ねると、

日々の事柄さえも

無限の印象を与える。

その深い味わいを

清らかに保持しようと

全てを与え、捉われたまま、

両股の間に、長々と

維持された空洞から

離れた時、

まるで、手から

流れ落ちる

水のような

虚しさ。

 

 

妄想 (Ossessione)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

僕の背後 思いが

追いかけて来て

直ぐに 影が

周辺に現れ

その架空の罪が

僕の心に襲い

かかる時、

すると 他の

全ての名称、行為

ニュアンスなど

何も重要でない

ことが、一層

明らかになる。

尺度は不要となり、

どうするか分らなく

事実、心が離脱する。

恐怖に身を委ね

お前、妄想の情欲に従い

僕を悩まし攻めつけ

僕にのしかかる悪を

お前の中に埋めるのだ。

 

 

出現 (Apparizione)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

僕に再会したことに

驚嘆の声を上げ喜び

僕の方へ駈けて来る

君の姿を夢に見た、

錯覚とか

とりわけ激情を

抱くのは僕だ、と

信じる僕を良く

解っていた君の

筈だ、と感じながら

僕も幸せだった。

直感力による幻覚が

水晶の中に閉ざされ

ており、それでいて

君の香りを

腕の中に抱きながら

黄色の壁に向かい

君にキッスした。

喘ぐぎながら目覚めた時

何とも言えない欲望に

駆られて 一日中、

心を無がす思いだったが

その火を消そうともせず

かまどの中で僕を煮詰め

暮らし、幸せ一杯だった。

 

 

不在 (Assenza)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

君がいない時、

君を僕のものにした、と

思った度ごと、するりと

逃れる君の瞳を見ない時、

息が詰まりそうになる程に

長いキッスをした後突然

微笑みを口一杯に漂わす

君の唇を見えない時など

処刑に科されたようだった、

僕の中の君を見て

情熱に燃える僕の

眼差しの中全ての

熱望が映されたようだった、

明るさが点されない限り

下へ下へと降りて行き

無条件で君が応じる

夢や思いのさらに

最も深い奥処へと

隠された君の港に

僕は達し行く。           

 

 

我が娘に (A mia figlia)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

ヒーローの如く、と言えば、

解るだろうよ、

僕が立ち去ったことを。

全ての情況に対応する自信なく

内気で迷惑ばかりかけており、

父親としての役目を果たせず、

面目のない僕。とは云え

僕が完全で全能者か、どうか

なんて、どうでも良いことだ

そうなりゃ、何もお前に

助言することなど

全くなくなるだろうし

居らないのと同然だろう、

ところが僕は

父として、在り続けたく、

たとえ断続的でも良いから

お前の好寄心を即座に

満たして上げたいので。

 

 

控えの間 (Anticamera)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

世の中の次の間には、

どれほどの玄関

ロビー、ソファー

待合室があり、

用心深く            抜け目ない奴らが

僕らを追い越して行き、そこで

温和しく            まごまごして残される

僕らのような者が、どれだけいるか。

どれほどのドアーが、荒々しく

閉じられたり、手で押えたまま

であったり・・・・、末解決の

出入口が、どれほどあることか。

役所に届ける申請や陳情が

公認されるまで、

結局は、義務以外の何事でも

ないことなのに、どれだけ長い

列をして、待たされるだろうか。

 

 

世の中 (Il mondo)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

次のようなことが始終

起きていることは確か、

日毎に、周りの世の中は

競技場とか新しいことを

発言する処になって行く、

そしてその周りで僕らが

回転して楽しむための

チャンスとなっている、

籠絡の放つ閃光に

隠れて、至る所で

憧れと魅惑を交えた

誘惑の契機が

提供されていも

そんなこと全く

どうでも良いことだ。

 

 

衝突 (Scontro)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

世にいくら命令しても

聞いてはくれず、結局は

世の中の考え通りになる。

平気で人を欺き、歪曲、

冒涜し、無関心に相手を

踏み躙り、ありとあらゆる

書類の過ちに 罪科の

矛先を向けている。だが

それはどうでも良いこと。

出発点で、もう挫折している

君の姿を見たくないんだよ。

それならば、目的に向かい

突進して行く方が良い。

たとえ、それに衝突しても、

砕けるのは、君の頭なのだからな。

 

 

お前の父 (Tuo padre)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

思いがけない時に

突然理解したこと、

と云えば、僕日母から

永久の証として得た

ほぼ絶対的君主国の

プリンスとしての

息子ではなかった

僕であり、むしろ

頼りにされ、彼女を保護

する立場になっていたため、

今では慎重な人間となり

お前に末来の目標までも

示そう・・・としがちな

お前の父たる僕なのだ。

さらに、僕にショック

だったのは、一瞬に

して、あらゆる不安

の念が、僕の心から

掻き消える、なんて

思いもよらない事を

既に 求めても

いなかったことだ。

 

 

ベッドの縁の先の闇 (Il buio oltre il bordo)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

多くの人と同じように

やはり僕も

それを経験した。

昼間の明るい光線が

次第に薄らいで行き

辺りが薄暗くなると

鬼神や魔女、怪物

などへの恐怖心が

ベッドの縁に秘かに

忍び込んで来る。

冷ややかな闇が

身体の上に伸し掛かり

目蓋から喉もと、

心臓の上に重く

乗れ下がる、その時

一瞬 堰を切ったように

君に深く思いを馳せるのだ、

誰の胸にも抱かれず、独り

深夜に身を埋めたままの君に。

 

 

コミュニケーション (Comunicazione)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

君の話を聞いているから

君自身と話してごらん、

君の視野から僕のそれへ

方向を変えたメッセージ。

ピントを良く合わせるため

カメラの中を

眺めるように。

事実、演劇や

緩やかな働き

ハレーの魅力など

僕は見逃さない。

その間、僕は、

君に語る君の言葉を

僕に向けられたもの

として聴くのだ。

虚空の彼方へと

君が架設した

不確かな橋。そのに立ち

僕は体を前に乗り出すと

身体のバランスを失い、

墜落したら、泳ぎ出すよ。

 

 

ファンタシー (Fantasia)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

君の言うことを聞かないほど

                                                                                    彼は、
虚脱状態で悲痛な

人間に成長したので、

ファンタシーについて

盛んに話す。 だが、

本当のところ、想像

するのが彼には恐いのだ。

現実を侵犯

世の中や

彼の人生、

全社会に

反抗し、非難的な

行動を取る彼を

軽蔑の目で

扱わないでくれ。

 

 

暴行 (Violenza)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

暴行はますます増大し、

硬い外皮が剥がされると

外側へ勢いよく爆発する、

ほぼノーマルな解釈では

牢獄看守と強姦者たちの

致死の暴力が

毎回、新しい

被害者の血に

塗れた手で

虐殺、その後で

暴行された肉体は

自己の原罪の

犠牲となる小羊、

それを公示せんとして

明確な意図を持ち、

真ん丸の形に傷をつける。

現社会の不浄な食肉

処理場では、曲礼の

犠牲に捧げられる

陰険なナイフとなる。

 

 

帰路 (Ritorno)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

突如、頭に

閃いた考えは、

扉の向こうの

鍵を回しながら、

       ふと

軽い不安から

                        解放され
やっと自分との接触を

取り戻し、再びその

関係が復活する、

という、夕べの

思いである。

 

 

トンネル (Tunnel)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

延々と続く長い

トンネルに突然

入ってしまうと

汚染された空気で

喉がひりひり痛む。

毎回、そこに入る度に

いつもこういう具合だ。

いやそれでも、それを

思いだしたり、以前て

用心することはない。

壁に反響する騒音で

僕に解ることは、

その真っ暗な道路に

入れば、僕に生き写しの

僕の死体同然となる、

つまり、その様は

僕の気持ちに返し

どのように変わり

果てるかなのだ。

 

 

どこにも (Da nessuna parte)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

明け方早々、

とか、写夜中に

何度となく僕は

家を出掛けたことか、

多くの場合、癇癪を起こし

嫌々ながら出発しては

帰宅後、玄関先で頭を

抱え込みしゃがんだことか。

僕が経た旅の全航路を

もしも、一つずつ

合計し、漂流状態の

長い連なりとして

一葉ずつ

その行き先を付け足す

ことができるなら、

距離が描かれた

奇怪な絵が

紙面・・・

一杯に作られて行き

あたかも、絶え間なく

宣言される処刑を

容認することに違いなく

手の平ほどの長さしか

進行していないこと、

と 前進するほどに

場所が見つからず

どこにも

到着しなことが

解るだろう。

 

 

推敲 (Limatura)



パオロ・ルッフィッリ作
松本康子訳

毎回、同じように
感じることで
抽象的なことではない
かも知れないが、
まさに肌残された
傷痕、悩ましては
消えて行く物質的
行為となったその
痛ましい切り口、
削除された小詞
最低限の省略を
点に置き換え、
全推敲が行われる。
僕の性格にも
よるのだろうが・・・、
とにかく、実際に
始めようとする時、
大なり小なりの形で
既に終わっていることだ。

 

 

不満 (Insoddisfazione)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

僕を鵜呑みにし

至福者と僕に思い込ませ、

完全に君の虜に

させておき、

僕を嚙み砕いてから

完全に恣意のまま

行動できる性格の

君なので、僕を

搾り取り 磨り潰した

挙げ句の果て、再び

口から吐き出すほど

僕を愛する君のくせに

直ちに見捨てられた、と

いう思いに襲われると、

どれだけ愛されたかを

測る街もなく、その苦情を

訴えるように、僕を

愛することにすっかり

不満な様子を見せ、

君の身体の一部に

その懲喉がかすかに

現れて来る。

 

 

 

虚言 (Menzogna)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

 

世間や生業を見ると、

権力者の好みに従い

日陰で支配する

黒幕的人物が

至る所にいて、

険悪な行為が

蔓延するのを

喜ぶ連中である。

仕事の価値や資質などは

理解できない暗愚な奴ら、

自分たちの使用人や

ごろつきたちを

信奉者に仕立てあげる。

事実を曲げ、人目を欺き

善人たち暗渠に陥れ

虚言を使い

暴力を振られる舞い

彼らの意志に

他の者たちを従わせる。

 

 

 

幸せ (Felicità)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

 

育為転変の激しい、延々

と続くことを前にすると、

人生の途中で、

たとえ慎重に構え

その問いを課す

意図があっても

無駄であり、最高の

幸せだけを取り上げ

て見れば、むしろ

幸せとは全ての事物の

溶暗と間違えられて

いる、と不確かに

答えるしかない。

 

 

船行 (Navigazione)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

ごた混ぜの現象を

増大しつつ、

一カクテルとかジュース

 混ぜ物、妙薬などの一

鏡の反射効果で

夢と現実が

創あり上げたものを

絶えず 無限に

前進させながら

ここに、奇怪な

戦いうぃ挑もうと

生命を宇宙に

示したのだ、

まるで超危険を侵す

大西洋横断定期船に

小舟を使い

広大な大洋を

横断させるように。

 

 

 

自分自身に (A se stesso)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

傷ついて 誠実味を失った

僕の心の鏡よ、そこにいて、

僕から逃れないでくれ。

僕を見捨てないで。

確かに君を良く知っている

だから今でも、僕の良い面を

映し出すように、今も

変わりない僕だが、

年を取るに従い

不純になり呆けて来て

不正直で嘘つきになった。

とは言え、誤りが僕の心に

重く伸し掛かるにも拘わらず

君の昔の予約通り

僕に定められた所へ

再び帰れるよう

過去の足跡を再び

辿って行くのだ。

だから、何事を言っても

たとえ、ここで後悔し

抗議を立てても、今は

どうなってでも良い、

むしろ僕であるよう

努力する、ともあれ

求め続ける人は、末だ

見いださなかった者、

なのだから。

 

 

幻惑 (Abbagli)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

根も葉もない理由で

両眼から創られた、という

妖精モルガンのように

君を眩惑して

最も激しい形で

君の傍らに

ミツバチを分封し、

君と意のままにする

ために・・・

妖精たちの魔法の

鐘の音で

君をおびき出し

ついには君の心を占め、

全く捉えようのない

その魔力で、君を

奈落の底まで引きずり込み

君に、それを受容したい

気持ちへと駆りたたせて

おき、それに触れよう、

とするその瞬間、君を

見捨てるのだ。これが

限界の事実なのだよ。

 

 

人形 (Bambola)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

女性らしい雰囲気の漂う

清純な姿小さな複製、

家庭的な慣例に従い

例の如く、食事、着替えの

手本や形をとる。

大人になるために

繰り返し、一生懸命

真似ごとの訓練に

打ち込む

あどけない口元。

肉体的な真の

情熱の伴わない人間の

動作を実習するため、

所詮は、身体の下に

秘められている

よこしまな考え

夢と欲求を満たす

空洞と凹でできた

蓋然的な箱である。

 

 

扉 (Porta)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

堤防、鉄柵、分水界

            一島と橋一

トンネル、抜け道、通路

などから浸透して来るのは

隔てた世間の残物である。

水底から拾い上げる

見えない不思議な

縫い目、

不安な心で、雷管を

セット、その安全状態を

確認する。

出口と入り口、

恐怖と信頼

休止と運動などは

二重の効果がある。

それは末知に向かい開かれ

再び閉ざされる真実だ。

 

 

戸棚 (Armadio)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

カオスの産物は

季節毎に段階に区切られ

計画されて、その

乱雑振りが労務者の

働きで片付いた。

担保の物品を預り

保管する場所。

その薄暗い、だだっ広い

空虚さ、小屋もしくは隠れ場、

苦渋の立場を救われ、

保護の許に、合法的に上へと

申し上がった人の、自惚れの <

程が積み重なり、虚言を

求め、貪欲な象成り果てる。

金庫を希求する夢から、害虫が

衣服を支配する場と化す処だ。

 

 

帽子



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

剥き出しの頭のてっぺんから

広い額まで、寒さから

防ぎ、頭を守るだけの

つもりで帽子を被って

出掛けたのだが、

歩いている途中に

滑り落ちたので、

反対側の道を通ったら

卑劣なスパイの役目を

する羽目に陥った、

風に靡く旗のように

僕らの頭上にありながら

カムフラジューして巧妙、

軽率に向きを変え、

僕らの司令官に

見せ掛け

船を指揮する舵取りの

役目となる。

 

 

ラジオ (Radio)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

沈黙のただ中に、

突然、厳粛な声が

勢いよく

聞こえてくる。

それは世間の口だ、

その声との接触により

湮没、不動で喘いだり

単に屈折していた心に

明かりが点火され

再び豊かな精気を

注いでくれる。

あたかも沖の内部に

エネルギーと快適さ

安らぎと仲間らを

結集する港のように、

その音響箱の

裂目を縫い合わせると

音は緩和され、性能が

取り戻されて行く・・

心の傷を焼灼、聴いて

いる内に、雑音で錯覚を

起こすのか、気持ちに

解放感を見えてくる。

 

 

靴 (Scarpa)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

アンダンテで刻む時鐘

2拍子の正確なりズム

やがて素早く前後に

抑揚を付け早足になる、

靴組が付いていても

まるでパチンコとか

ミサイルの発射装置の

ように、片方を地面に

置き、地方を地上に

持ち上げる。交互に

動く靴の秘密とは、

一対で歩くところにあり、

たとえ二つに分かれて

いても、一つの結び合いを

固めているところにある。

 

 

腰掛け (Sedia)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

他の側面は人目に付かず

隠されたままの人生、

それは傑出した部分だが

法律や電極、また物体を

地面に引き付ける磁石

とは表面的に異なり、

誰にも気付かれぬところ、

物体を胸に抱え、支えて

士台や彫像載せの石台の

重みに耐える、そのため

放棄されたまま

これほど純粋な姿に・・・

なって了ったことを

知らせろのだが、

歩行から休息に

働きから静止を

課しても、より大きく

飛躍するには

足台とジャンプ台にと

世人を促して行く。

 

 

辞書 (Vocabolario)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

名簿、リスト

カタログ、商品目録

政府の閣僚

トランプの女王

在庫品と配置された

言葉の銘床

円形のケーキ全部が

整然と徐々に

切られて人に配られる、

地獄や理想郷へと

開かれた扉

天から授かった宝庫

才能の源泉とタンク

水面に浮かぶ大陸で

その一部が海中に沈み

全宇宙を総括し、

要約して

体系づけられた

カード箱。

 

 

眼鏡 (Occhiali)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

煙霧の中のヘッド・ライト、

光の魔よけであり

一つの接触手段となる、

薄暗い車内を照らし、現実

の一部を呈するあらゆる

欠点を拡大するのに

もうちょっと先の方へ

明かりが届くものならば、

クランク・レバー・モーター

や詩となり、希望を

齎す微光となる。

錨を上げて、眼鏡を

つけ、モグラのような

近視を避ける。すると、

その古い丸ガラスに

人生と顕界の事柄が

鮮明に映るのだ。

 

 

櫛 (Pettine)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

頭のてっぺんまで届き

上がり下がりする

手の単純な動作で

神の手のもつれをほどき

一節ずつ、そのスコアを

準備する、

櫛の歯に髪の毛を

ふわっと取り巻き

楽しい余暇の

複雑な思いを廻らす、

音調を考案

虚栄の夢がさらに

華麗に輝く様相に

変わる扮装者の音階

を作りあげる、

パーティーでは

非常に快活で急速な

クーラントの舞曲を

踊るのに 自分の

相手を間違えて

現実に立ち戻る。

 

 

ストッキング (Calze)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

繻子の手袋

コルセット、短剣入りの鞘

それとも 額縁か、

ともあれ、ピンク色の

身体を取り巻く物だ、と下に
<
br> アンダーラインを引きながら、

足の付け根とマント

容器、幸せな欲望を

抱かせ、純粋な

願いを隠す物、

上部に深く刻まれた

商標が邪魔物だ。

足の先端が補強され

ている部分から、

踵の上に這い上がり

尾根の坂を通り

繋ぎ目を経て登ると

縫い目の縁に辿り着く、

崖のふちは

傷を毟り取ったようで

屠殺の傷跡を見せている、

 

 

ヒール (Tacco)



パオロ・ルッフィッリ作

松本康子訳

背を高く見せるため

突起部に付着した物、

低い物から始まり

飛び上がれないほど

急な傾斜となる踵。

そこに鞭打つような衝撃を

与えると、突起物は空を

切り、勢い良く、沼地に突進、

中に沈没する石ころだ。

踵の上に載せられた

頭の鏡のようなもの、

だから、頭を持ち運ぶ時

興奮して、頭を巻き締め

噛み付き、苛ませて

果ては、踏み躙るのだ。

 

 

 


  Paolo Ruffilli Mail: ruffillipoetry@gmail.com